第二回目となる今回は、名古屋尾頭橋にあるKIKKA WORKSのお二人です。
是非、「LOCALS」本誌とあわせてご覧ください。
木工制作工房「KIKKA WORKS」の工房があるのは、名古屋市中川区の尾頭橋地区。
江戸時代から街道を中心に旅人が行きかう街として栄え、今もたくさんの商店が立ち並ぶ、活気あるエリアです。
伺ったのは夏真っ盛りの8月。1日に数件の取材を行う私たち編集チームは、午後ともなると汗だくに…。
そんな中、その日最後の取材、と気合を入れて訪れた工房の建物は、冷房なし!
「おお…(汗)」と思ったのも束の間、迎えてくれた粟田さんご夫妻のさわやかなこと!
一気に暑さが吹き飛びました。
この場所は、一行さんのご実家の花屋「菊花園」の倉庫を利用したもの。
お気付きかもしれませんが、「KIKKA WORKS」の「KIKKA」は「菊花」とかけてあるのだそう。
お祝いごとのときに贈る花輪などが並べてある不思議な空間です。
倉庫の奥にはたくさんの機材があり、すべての家具や小物たちが、ここでひとつずつ、丁寧に手作業で作られます。
木の香りに包まれながら、汗をかきつつ作業する一行さん。
その姿がとてもかっこよく、そして扇風機の風や、時折窓から吹き込む外の風が気持ちよくて、
ああ、ここには冷房はいらないな、と感じたのでした。
夏は暑くて、冬は寒い。自然の移ろいを感じられる空間が、有機的な雰囲気と優しい表情を持つ「KIKKAWORKS」の作品と、しっくり馴染む気がしたのです。
「KIKKA WORKS」の作品は、どれも無垢の木材が使われています。
その理由を聞くと、「木のポテンシャルってすごいんですよ」と教えてくれる一行さん。
作品が完成した瞬間が一番きれいなのではなく、経年とともにキズや汚れが付くことで味わいが増し、
よいものになっていく。加工もしやすいし、手触りも柔らかい。
「木は素直」なのだと、一行さんは話します。
元々は建築の世界にいた一行さんと綾さんですが、よりお客さんと近い距離でものづくりができるこの仕事を始めて、本当にやりがいを感じているのだとか。
作品は基本的に受注生産なので、お客さんの要望を聞きながら、1から10まで自分たちで作りあげます。
今までの作品にはすべて、お客さんとの思い出がぎっしり。
「どれも思い入れがあるから、よく『あの椅子、今どうしてるかな?』なんて考えますね」。
事務所の壁には、ふっと湧いたアイデアを書き留めた一行さんのスケッチがずらり。
作品を考えていると、こうした何気ない落書きのようなラフが、ピタッとはまる瞬間があるのだとか。
取材時に9ヶ月だった息子の季野(きの)くんの誕生も、作り手目線に留まらないアイデアが生まれるきっかけに
なったそうです。
「KIKKA WORKS」の作品には、思わずニコッとしてしまう仕掛けがあります。
たとえば、2013年に「グッドデザイン賞」を受賞したベビーチェア。
身体の成長に合わせ、積み木のようなグラデーションカラーのブロックを外して、座面の高さを調整できる椅子です。
子どもの成長を、積み木が減ることで視覚的に感じ取れるなんて、遊び心がありますよね。
「こんな少しの工夫で、毎日の暮らしが楽しくなると思うんです」と一行さん。
「KIKKA WORKS」を立ち上げるとき、生まれ育った尾頭橋の街に戻ろうと決めた一行さん。
いざ帰ると、昔は気付かなかったいいところをたくさん見つけたそう。
居心地のよさをはじめ、実はここが、名古屋の中でもものづくりに適した場所だったということもそのひとつ。
工房の周辺には家具屋や材木屋が多く、町工場もあるので、金具ひとつでもお願いすればすぐ作ってもらえるのだとか。
休日は家族3人で市内のコーヒー店を巡ったり、ユニークな作品が集まる大須のギャラリーに出向いて刺激をもらったり。
一行さんと綾さんの話を聞いていると、地に足が付いた暮らしとはこういうことなんだなと分かります。
基盤がしっかりしているからこそ、夫妻の作品は、どれも「KIKKA WORKS」らしい個性がちゃんとある。ブレていないのです。
取材を終え、工房を出るともう夕方。
ギラギラした真夏の西日を浴びながら、でも心には軽やかな風が吹いているよう…
そんな充足感に包まれ、多くの人や車が行きかう尾頭橋を後にした私たちでした。
「KIKKA WORKS」
http://kikkaworks.com/