一号目では名古屋に住む、様々な人達を特集しています。
地元を愛し、その土地で生まれた文化を大切にするローカルズ。
そんな人たちのライフスタイルの一部になれるようなお店をSHARE PARKは目指しています。
本誌では伝えきれなかった、撮影裏話をウェブサイトでは限定公開!
四回目となる今回は、瀬戸市で陶芸家として活動する深田涼子さんのストーリー。
1000年以上もの歴史を誇る伝統工芸の一大生産地、瀬戸。
ここに、ユニークな活動に取り組む女性陶芸家がいると聞き、会いに出かけました。
彼女の名前は深田涼子さん。
なんでも、名古屋の繁華街のバーで“夜の陶芸教室”なるイベントを開いて人気を博しているのだとか。
自由にお酒を飲んだり、おしゃべりをしながら、気の赴くまま手を動かし、器を作る…
想像すると、なんだか楽しそう!
きっとご本人も楽しい方に違いない。そんな気持ちで工房を訪れた取材班の前にさっそうと現れたのは、黒のオールインワンに身を包んだおしゃれな女性でした。
この街で生まれ育った生粋の瀬戸っ子で、今や陶芸を生業とする身。
さぞや地元への思いは強かろうと思いきや、深田さんの口からは意外な言葉が。
「私、瀬戸が大嫌いだったんです(笑)」。
昔からフランスなどの海外文化に惹かれていたという深田さん、若い頃はのんびりした瀬戸の街が古臭く感じられ、嫌で仕方なかったのだとか。
貯めたお金を手に、単身ヨーロッパへ渡ったのが19歳。
憧れていた生活が遂に実現…!と思いきや、待っていたのはホームシックで心身ともにボロボロの暮らし。
夢破れ、帰国した深田さんを待っていたのは、地元・瀬戸のふんわりと温かい、居心地のよい毎日でした。
「家族も友達もいて、日々満たされている。あ、この街もいいもんだななんて思って。
景色がそれまでとは違ってみえるほどでした。時間もあったし、たまたまやってみようと教室に行ってみたのが、陶芸との出合いなんです」。
「とにかく、土の感触の気持ちよさにびっくりしました。疲れているときでも、すごく癒されるんですよ。
当時は会社勤めだったのですが、2年ほどしてから、思い切って一生陶芸と付き合うと決め、会社を辞めました」。
そのときのことを、深田さんは“陶芸と結婚した”と話します。
陶芸は自分の心を映す鏡。自分が落ち着いているときは作品も安定し、不安定な気分なら、作品にも揺れ動く心が現れるのだとか。
「生きていると、恋愛で調子が狂うことも多々あります(笑)。でも器は私を裏切りません。人生の伴侶にしたいと、心から思ったんです」。
撮影のためSHARE PARKの白いシャツとパンツに着替えてもらうと、深田さんは鏡の前に立ち、迷わず頭にスカーフを巻きました。
「アクセントになるかなと思って」。
このスカーフはおばあさまからもらったヴィンテージのもの。
ファッション好きな深田さんの感性は、作品にも息づいています。
「2色以上を組み合わせて使うことが多いですね。ちょうど服をコーディネートする感覚なんです」。
見れば、サンダル履きの足にはペディキュアが。
陶芸教室を主宰するときは、なんとハイヒールで作陶するのだとか!
一般的な陶芸家のナチュラルなイメージを覆し、マイスタイルを貫く深田さんの姿、カッコいいですよね。
陶芸学校時代、進路に迷っていたとき、偶然現れた美しい色なのだそう。
「器の世界は予期しないことばかり。自分の力ではなく、火の力が作るものだから、どんな仕上がりになるかなんて、窯から出すまで分からないんです。
自分で完璧にやろうとせず、火に任せるようにしてから、器作りが楽しくなりました。
人生も失敗ばかりと感じていたけど、ようやく最近、失敗もあるよねって、肯定できるようになったかな」。
大嫌いだったふるさとが、今ではすっかり深田さんの居場所に。
当たり前に陶芸が根付くここ瀬戸にいると、先代の築いてきた歴史に感動するのだと深田さん。
「この家を工房にして、陶芸を生業に生きていると、ご先祖さまが守ってくれているような気がするんです」。
いきいきと輝くその笑顔から、迷いなく自分の道を生きる女性の強さが伝わります。
取材を終えて名古屋に帰る道すがら、試しに触らせてもらった粘土の、ひやりと心地よい感触を思い出し、自分も何かに迷ったら、土を捏ねてみようかな…そんなことをふと思ったのでした。